十二国記 戴の人物考察②~琅燦~

小説

琅燦(ろうさん)は表紙には登場しないので、アイキャッチは李斎や他の女性陣に登場してもらいました(笑)

今回の「白銀の墟 玄の月」最大の謎だった人。

改めて今回戴のシリーズを最初から読み返してみて、初読のときには気づかなかった一面が見えてきました。

 

<注意書き>

※十二国記「風の海 迷宮の岸」「黄昏の岸 暁の天」「白銀の墟 玄の月」のネタバレがあります。未読の方はご注意を。

※昔のシリーズ(「風の海 迷宮の岸」「黄昏の岸 暁の天」)の引用は、ホワイトハート文庫のものになります。

※琅燦については私見による考察の部分が多いです。ご了承ください。

 

琅燦(ろうさん)

初出は、「黄昏の岸 暁の天」です。李斎曰く「歳の頃は十八、九の小娘」(笑)

琅燦は黄朱(黄海で生きる人たち)です。

 

驍宗が轍囲の一件で一度仙籍を離れていた時期に黄朱と交流したのが発端で、黄朱の人たちに認められた驍宗に託されるかたちで預けられています。

琅燦の優秀具合から考えると、おそらくそれくらい黄朱の人たちと驍宗は深い信頼関係を築いたのだと推測されます。

厳寒の戴に大いな恵みを与えてくれた「鴻慈(こうじ」(簡単にいうと、炭になる実)も、黄朱からもたらされました。

(この辺の情報は、「白銀の墟 玄の月」3巻の項梁と耶利の会話からP171 第15章2のあたり)

 

つまり、驍宗が王になる前からの知り合いでもあり、前王の時代に地位も名誉も一旦手放した驍宗に一目置いた黄朱に由縁する人で、驍宗が王になってからは冬官長の地位に就いています。

驍宗との付き合いは長い上に、軍の麾下とも王宮の役人とも異なる立ち位置から始まっているので、いろんな意味で異質な人。

黄朱だから普通の民と考え方がちょっと(いや、だいぶ)違う。そしてめちゃくちゃ頭が切れる。

 

琅燦については、約1年前の考察でも頭を捻って書いていましたが、まだ「実際どうなんだろう」と半信半疑なところがありました。

▽1年前の考察はこちら

 

そのときは、琅燦は「黄朱だから他の人と違う価値観や好奇心で行動していたのではないか」というのが、個人的見解として出した結論でした。

 

改めて読み返してみると

この人めちゃくちゃ驍宗好きだし、ずっと驍宗と戴のために動き回っていたんじゃないか!

 

はい。疑ってすみませんでした。

民の人たちくらい素直な(=単純な)わたしの辞書のなかには琅燦みたいな人物は存在せず、彼女の不可解な言動にずっと頭を悩ませてきました。

逆に知れば知るほど、好きになってきました。

 

李斎みたいな人は良くも悪くもわかりやすくていいんです。

情に厚いし真っ直ぐで、ときに私情が優先される人間くさいところもあるし(そこが李斎の魅力でもある)、でも人としての大事なところの優先順位を持てている。ゆえに周りからの信望が厚い。

驍宗ですら、李斎には自分の弱いところを見せる場面がありました。

 

でも琅燦って、傍目にはとてもわかりにくい。

たぶん驍宗が帰還したあとでも、琅燦のこれまでの行いを良しと見ない人たちは一定数いるんじゃないかな。そして、当の琅燦はそれを大して気にしないように思える。

基本的に馴れ合いはしないし、人に認めてもらうために行動していない。

 

戴の一連の物語のなかで、琅燦の動きがどうだったのか、今回はもう少し丁寧に掘り下げたいと思います。

 

琅燦は阿選を唆(そそのか)したのか。

(どうでもいいんですが、「唆(そそのか)す」って漢字読めますか。わたしは読めませんでした……というわけでふりがなをカッコ付けしておいた)

 

はい。最初にして最大の謎。わたしがいちばん引っかかっていたのはここです。

阿選と琅燦の関係って一体なんなんだろう。

 

琅燦は最初から最後まで驍宗には「驍宗様」と呼び、阿選は呼び捨てです。

これは、阿選本人の前でも張運たち他の官の前でも一貫している。(つくづくブレない人だ)

にも関わらず、阿選の行動のいくつかには琅燦が関与しています。

結局琅燦は、阿選の驍宗への弑逆に手を貸したのか、貸さなかったのか。

 

個人的には、「そそのかしたけど、直接的には手を貸していない」のではないかと思います。

いくつか仮説を立ててみました。

 

仮説1:阿選の叛意を察知してあえてけしかけていた

驍宗が登極して、新王朝が整備されていくなかで

琅燦は、驍宗や阿選の麾下よりもずっと冷静に阿選の動向を見ていたのではないでしょうか。

 

最初にも述べた通り、彼女の立ち位置って特殊。

特に軍人の麾下とは視点が違う。軍人の麾下の人たちは、全体的に素直な人が多いように見受けられます(つまり、視点が捻くれていない。そうじゃないと、上官の命令を聞いて任務を遂行する軍人はやっていけないところが多いと思います)。

琅燦は、頭も切れるし素直とは言い難い。

 

驍宗本人がなんとなく肌で感じていた直感のような阿選の謀反の可能性を、琅燦は別の視点から感じていたのではないでしょうか。

 

ちなみに阿選謀反の可能性は、阿選本人も自覚するまで時間がかかるほどわかりにくいものでした。(この辺は、また次回に詳しく考察します)

「迷宮の岸 暁の天」で、驍宗が大規模な虎狩りを実施していますが、そこに阿選は含まれていませんでした。

当然です。まだ証拠になることは何もしていませんでしたから。

 

驍宗が函養山の奥深くで回想するように、阿選は立つか立たないかを選ぶことができたのです。

逆にいうと、琅燦がいろいろ吹き込んだとしても「うっせえなあ」くらいで耳を貸さないということも選べたはずです。

むしろそこで笑い飛ばせるくらいの気概があれば、阿選は驍宗にとってこの上ない重鎮にもなっていたでしょう。

 

ほら、そこの天秤。そこを琅燦は計ったのではないでしょうか。

 

阿選が将来的に驍宗にとって良からぬ存在になる可能性は、李斎をはじめとした他の臣たちにとってあまり想定されていない事態でした。

表面上はこの二人はとてもうまくいっているように見えましたから。

阿選麾下の人たちも、驍宗より阿選のほうが王にふさわしいと思っていても、当の阿選本人にその未練があるように見えず、現状を少しずつ受け入れるしかない状況でした。

 

おそらく、この登極から半年の時点で阿選のなかにある不遜の芽に最も気づいていたのは、琅燦だったんじゃないかなと推測しました。

叩いて埃が出てくるかどうかは、叩いてみないとわからない。

先ほど書いたように、焚き付けて阿選が一笑に付せばそれでもいいんです。

 

仮説2:阿選が鵜呑みにして実践することを想定されていない会話だった

また、琅燦は果たしてそこまで全てを見通していたかということにも疑問があります。

例えば、麒麟の角が麒麟の能力の源という知識があったとしても、実際に麒麟の角を抉った経験はないはずです。

阿選が決定打にした「同姓の王が続くことがない」発言にしても、琅燦が勝手にそう言っているだけです。

もしかしたら、阿選がその最初の同姓の王になったかもしれないのにね。それも天の摂理が決めることです。

 

「黄昏の岸 暁の天」で、李斎は天の摂理がどういうものか目の当たりにして唖然とします。

六太(延麒)が、いちいち玄君にお伺いを立てにいって天の意向を確認するくらい、天の摂理は実はけっこう曖昧なもの。

 

琅燦の知識量は膨大だけれども、彼女は天の使いでもなんでもありません。ただの黄朱です。

つまり、さももっともらしく言っているけれど、それを真実として捉えるかどうかは疑問の余地があります。

 

しかし、阿選はまあびっくりするくらい鵜呑みにしてしまいました。

阿選ほど頭の良い人がと思われるかもしれないけど。これって現実でもあり得る話です。

例えばオウムの事件では、世間では超エリートと言われる人たちがオウム真理教の教えに没入して行き、平成でも類を見ない犯罪を起こしました。

詳しくは次回の考察でしますが、頭が良い人が、必ずしも正しい判断ができるとは限らないのです。

 

また、知識を持っていても、それを実行するかどうかはまた別の話でもあります。

これは、例えば医者の話。

お医者さんは人の身体のスペシャリストです。人体や病気について知識を持っているということは、実は人を殺すにはどうしたらいいかを誰よりも詳しく知っているとも言えます。

でも、それをやったら殺人者になりますよね。知っていても、やらないのです。やったら犯罪者の仲間入りです。

 

そこには倫理観や矜持、理念があるからです。

 

琅燦は妖魔を使役する方法を知っているけれど、それは妖魔と関わる機会の多い黄朱ならではの知恵でもあります。

ただ、日常的に妖魔を使っていたとは個人的には考えにくい。

 

理由のひとつには、妖魔はある程度使役できるけれど、人が使いこなせるものではないことも知っているから。

もうひとつは、そうやって妖魔を使うこと、まして妖魔を使って人を操ることに、意義を感じづらいだろうから。(ここは推測なんだけど、琅燦はその一線は守っていると思う)

 

 

阿選が妖魔を使った結果、多くの人は廃人になったりひどい扱いを受けることになりました。

それは、明らかに人の範疇を超えた行いです。

知っていても、それをやるのとやらないのは大きな差がある。

 

そして、一線を越してしまった阿選はそこに対する見境がなくなっている節があります。

この辺の判断って非常にむずかしいところです。例えば、昔は奴隷制度が当たり前に行われていたことのように、時代や文化によって価値や倫理観は変化します。

 

琅燦がどこまで阿選が自分の話を鵜呑みにして行動するかを見通していたかは謎ですが、予想以上に阿選は「やらかしてしまった」んではないかというのが個人的見解です。

 

※ちなみに、阿選自身は琅燦が手を貸したように捉えている記述がありますが、これは阿選の見方で、琅燦側がどうだったかはわかりません。次回の考察で述べますが、阿選さんは結構思い込みの激しい純情さんという気がする。

 

まとめ

仮説ではありますが、個人的見解としては

  • 琅燦は阿選のなかにくすぶる弱いところを突ついていたら、予想以上に大火事になってしまった。
  • 阿選が全部鵜呑みにして実行することは想定されていなかった。

可能性があるのかなと思います。

 

だいぶ琅燦に肩入れした意見になっていますので、人によって意見が分かれるところだろうなとは思います。

それでも見た目年上の働き盛りでプライドもある男性に、見た目18、9歳の小娘が(十二国記の世界は仙籍があるからややこしい……)あれやこれやと吹き込むのは、やっぱりよろしくなかったんじゃないかなとも思います。

真に受けた阿選も阿選なんで、どっちもどっちやろうという感がありますが、あとの被害を考えると琅燦の言動は必ずしも褒められるものではないかもしれません。

この年代の男性は、お嬢さんが思っている以上にナイーブなんだよ。

 

その後の琅燦の動きについて

ただ一線を予想以上に越してしまって事態がとんでもない方向に動いた(ある意味動かなくなった)ときに、琅燦が賢いのは現状で自分ができる最善の手を打っていることです。

おそらくそこで阿選を糾弾しても、奏功はしなかったでしょう。(そもそもそういうキャラには見えない)

 

むしろ阿選が立ち驍宗が行方不明になった段階で、王宮内に残って状況を把握しそれなりに自由に動ける立ち位置の人が必要でした。

ある意味で、琅燦はそれに打ってつけの人物だったわけです。

 

しかも、すんごい不思議なんだけど、彼女は阿選や張運たちの前でも「驍宗様」呼びだしね。

彼女の目論見は全体的にとってもわかりづらいんだけど、行動は実にとてもわかりやすく一貫しています。琅燦は一度も驍宗に叛意を向けていないし、阿選に追従もしていない。

 

琅燦が表や裏でいろいろやっていたことをまとめてみました。

 

計都を保護していた

驍宗の騎獣である計都は、文州討伐の折に主人を失って帰ってきました。計都が驍宗の大事なものであることは、黄朱である琅燦にはよくわかることだと思います。

王宮内で捕らえられずに残っていた驍宗の主要な麾下は、琅燦と厳趙。

厳趙が、この計都の世話をしていました。

琅燦と厳趙の二人がどれくらい裏で通じていたかはわからないのですが(結構通じていたのではないかと思う)、おそらく役割分担をしていたのではないかと思われます。

 

表に出てよく動くのは、頭の切れる琅燦。(裏でもいろいろ動いているけど)

動くと目立つ厳趙(実際に人質を取られているような状態で動きづらい)は、場合によって人を逃すような裏方の役割。

 

とにかく王宮内に、驍宗派の人が目立たずに残っていないといけなかった。

王宮を阿選もしくは張運などに、完全に掌握される事態をこの二人は回避していたとも取れます。

また、それはいつの日か驍宗が王宮に戻ることを見越してという動きでもあったように思います。

 

その象徴たるが計都だったのではないでしょうか。

 

事実、驍宗が姿を表したとき、計都を主人のもとへ連れて行ったのは琅燦でした。

事態が混乱するなかで、そういうことを真っ先に思い浮かぶ人とも言えます。

 

密かに正確な情報を流していた

言うまでもなく玄管は琅燦です。

石林観の沐雨(もくう)に朱旌を経由して玄管が届けられていました。(朱旌は黄朱と同じ黄海の出身の人たち)

最初の青鳥は、「瑞雲観を止めたほうがいい」という知らせ。

瑞雲観は、阿選が新王に立ったときに真っ先に意を唱えたところです。その結果、誰も想像しなかったような壊滅的な被害を受けました。

 

その時点から、打てる手を打とうとしていたことが窺えます。

 

しかし、一方で阿選のほうが上手というか、最初のころの討伐は、民に対して容赦がありませんでした。

だから、打てる手をもう少し長い息でできることにしていったとも考えられます。

 

どこかで正しい情報が伝わっていることは、戴でこころある人たちがいつの日か動くときのための、一筋の希望でもあったと思います。

 

冬官の保護

前回の感想でも書いたのですが、冬官の保護は琅燦のした最も大きな功績です。

彼女はその方面の知識も豊富で、以前は冬官長も務めていました。

 

阿選統治下では冬官長の地位を退いていますが、おそらくそれはより動きやすい立ち位置にシフトチェンジするためでしょう。(六官長の位置にいると張運がうるさい)

実質的な権限は、琅燦が掌握していました。

 

理由の一つには、技術は一度失われると取り戻すことがむずかしいことがあると思います。

人は厳しい言い方をすれば、なんとかなります。

でも技術はそうはいかない。技術は伝えられるものです。

 

驍宗が戻ってきたときに、何が失くなっていると困るかをよく見極めているとも言えます。

たぶんこの辺は、黄朱としての知恵や考え方にもよるのでしょう。

 

優先順位が、李斎たちのそれとは違う。

だから、人によっては次の手は、果たして良いのか賛否両論になりそうです。

 

傀儡化の知恵

阿選が立ってから、多くの州侯をはじめ阿選の周辺の人が「病み」ました。

これは自然にそうなったのではなくて、阿選の手(次蟾)によるものです。妖魔を使っているけれど、人為的な技です。

そして、その方法を教えたのは紛れもなく琅燦です。

 

ここ、意見が分かれそうですよね。なんで阿選にそんな都合の良いことを教えるのかな? って思いませんか。(わたしも結構ここは悩んだ)

 

阿選が傀儡を使うことは、琅燦にとっても都合が良かったんじゃないかな。

傀儡は、命令には従います。でも、自分で考えることはしません(できません)。

 

阿選の周りに、阿選に与する心ある人たちが集まるよりも、阿選の言う事をよく聞くお人形さんのような傀儡が集まるほうが、結果的には良かったんじゃないかな。

事実、江州奪還の際に、この病んだ傀儡の人たちは、大いに役に立たなくて結果的に驍宗側の役に立ちます。

 

ただ、傀儡の人たちももともとは心ある人間です。戴の民です。

恵棟をはじめ、物語のなかでも何人かの人たちがこの犠牲にあいました。

 

李斎たちがよく「もし驍宗だったらこの状況をどう考えるか」というのを判断基準にしていましたが、おそらく驍宗ならこのやり方は是とはしないでしょう。

 

実際にそれを使っていたのは阿選だったとしても、そのやり方を教えたのは琅燦です。

結果的に言えば、阿選は自ら誰も信じられずに孤立化する道へ行ってしまったので自業自得とも取れるんだけど、釈然としないものは残るような気もします。

善良であるだけが生きる知恵ではないことを、琅燦を通して教えられたような気もします。

 

阿選に近いところにいた

最大の、そして琅燦にしかできなかったこと。一連のなかで、阿選に最も近いところにいたことです。

張運たちにすらできなかったことです。

ある意味で表面上は共犯者のような立ち位置。

 

これは監視する役割でもあり、張運に実権を握らせないための重石のような役割でもあり、阿選にとっては最後の砦のような役割でもあったように思います。

 

実際には、琅燦は最初から最後まで一貫して阿選に同情的ではなかったんだけど

なぜかそのために、返って阿選からは信頼されていた。

 

そして阿選に最も近いところにいたからこそ、見えないところで(見えるところでも)泰麒のために行動してくれていたのがわかります。

これは琅燦にしかできなかったこと。

泰麒本人も言っていますが、最初に阿選と邂逅したときに、叩頭させることがいちばん手っ取り早くてわかりやすい方法だったはずです。琅燦はそれを知っていたから、あえてそれを回避させる(そして周りに信じ込ませる)方法を取ったとも言えます。

(ちなみに、のちに阿選に泰麒が叩頭する場面は、琅燦はいません)

 

耶利を遣わしたのも、琅燦です。厳趙も、泰麒のもとに向かわせたタイミングは琅燦が決めていた。(厳趙が言っていた「ある人」は琅燦のことでしょう)

琅燦も耶利も、二人とも嘘がうまいというか、あえて本当のことは漏らしていないのだけれど、だからこそ

耶利の前で話した琅燦の言葉が、いちばん本音に近いところだったのだろうなと思います。

 

結び

思った以上にまとまりがなく長くなってしまいました。すみません。

1回目を読んだときは、琅燦のことがわからなくて「???」だったのですが

琅燦を味方として読み返すと、また違った景色が見えてきて面白かったです。

 

ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました。

次回で最終回です。

関連情報

以前は講談社から出ていましたが、現在は新潮文庫でシリーズ全巻出ています。

▽全巻セットもあります。

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