「一人称単数」村上春樹

小説

久しぶりの村上春樹さんの短編集です。

最近はエッセイ的なものや対談が多かったので、短編もご無沙汰な感じがします。

 

▽最近の春樹さん本の感想

わたしは、村上春樹さんは長編のほうが好きです。

短編はあまり得意じゃないんだけど(あ、でも「東京奇譚集」は割と好きだな)、がんばって感想を書いていきます。

 

▽ちなみに東京奇譚集はこちらでも取り上げています。

 

 

『猫を棄てる』を思い出した。

収録されている作品全てではないんだけど、どこか死の匂いがするような、そういう世界に近いような作品が印象に残りました。

読んでいて、『猫を棄てる』を思い出した。

あと、「ノルウェイの森」も。あれは、死とセックスのことが書かれている作品で、春樹さんの本のなかでは、ちょっと違う匂いがする。

 

でも、「ノルウェイの森」ほどのみずみずしい若さと危うさ(良くも悪くも)みたいなのはなくて、いまの年代の春樹さんだから書ける立ち位置みたいなのも感じました。

「ノルウェイの森」も回顧なんだけど、でもそれよりももっと歳をとってから回顧しているような感じ。だから「ノルウェイの森」は似ているようで遠い気がします。(あ、似ていると言ったけど似てないのか)

 

作者が、何か昔を振り返って書いているような作品が、この短編はとても多い。そうだ、『猫を棄てる』は春樹さんが父を思い出しながら書いているから、だから印象が似ているんだ。

 

あ、あと。春樹さんにしてはとてもめずらしく。初めてじゃないかしらというくらいにめずらしく。

作中で関西弁を喋る人が何回か登場したこと。(「クリーム」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」)

春樹さんの生まれ育った地が、なんとなく思い起こさせるような描写があったこと。

 

それも、「猫を棄てる」を思い出させた。

だって春樹さんは兵庫のご出身だが、これまでなんというか、そういうことを匂わせることが本当にある意味意識的に取り除かれてきたからです。まあ、小説で方言が出てくることって、意識的にしないとできないと思うけど。

 

そこも読み手としては、これまでにない体験でした。

以下、印象に残った話をピックアップしてみます。

 

ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles

物語の核にあるのは表題のビートルズの曲です。

わたしはビートルズのことは詳しくないし、音楽についての造詣もないので、それについてはなんともコメントのしようがない。魚屋さんが和菓子屋さんについてコメントするようなものです。

 

このビートルズの曲が、作中の進行にすごく重要かと言われるとそんな感じもするし、そうでもないような気もするんだけど、でもそれがあることで、ピリリっと作品が引き締まるような感じです。そういう使われ方って好きだなあ。例えば、作中で主人公が朗読した芥川龍之介の『歯車』では、こうはいかない。

 

ガールフレンドの奇妙なお兄さんが、とても印象的で、なぜかとても親しみを感じました。

この短編集に収録されているお話のなかでは、いちばん好きかもしれない。

 

クリーム

 

「ぼくらの人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。説明もつかないし筋も通らない、しかし心だけは深くかき乱されるような出来事が。そんなときは何も思わず何も考えず、ただ目を閉じてやり過ごしていくしかないんじゃないかな。大きな波の下をくぐり抜けるときのように」

(P46より引用)

 

これまた奇妙なお話。

でも、なんか空気感というか質感が好きです。

 

結局いろんなことがよくわからないままなんですが、でも「人生のクリーム」というよくわからない概念(教訓? 考え方? ぴったりの言葉が見つからない)が、「うんうん、そうだな」と首を緩く(しっかりというよりも緩く)頷かせます。

 

結び

こうやって感想に書いてみると、今回は特に言葉で理路整然と説明できない感覚で受け取っているなあと思いました。

だから、文章にしてみると曖昧でよくわからない表現になっている。(すみません)

たぶん、以前の川上さんとの対談で表現されていた、地下2階的要素が大きいのでしょう。

でも、感想を書いていて、自分は読んだあとの読後感よりも、この短編集から良い感覚を受け取ったのかもしれないと気づきました。

 

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