時間を自分の側につけること - -「ハナレイ・ベイ」映画と原作、「騎士団長殺し」から

小説
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村上春樹さんの「東京奇譚集」という短編集に収められている「ハナレイ・ベイ」が、映画化された。

というわけで、今日は映画と原作の「ハナレイ・ベイ」と、最近再読していた「騎士団長殺し」と織り交ぜて感想を書いてみます。

 

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はじめに、原作「ハナレイ・ベイ」


東京奇譚集 村上春樹(新潮文庫)

 

「東京奇譚集」は読んだことがあるのですが、「ハナレイ・ベイ」のことはすっかり忘れていました。

 

映画を観る前に再読してみたのですが、調律師の男性の話は割とありありと覚えているのに、こちらは初めて読むかのように新鮮な気持ちで読みました(つまりまったく覚えていない)

 

でも線が引いてあったので、過去のわたしはなにを思いながらこれを読んでいたのか……

 

春樹さんの作品には、クールな女性がよく登場しますが、わたしの持っているものとあまりに違いすぎて、なんだか共感しづらかったのかもしれません。共感とは、別に共通するものがなくてもできるものですが、ここではそれがうまく働かなかった。

 

 

次に、映画「ハナレイ・ベイ」

 

 

原作があるものを別の媒体で創られるものは、原作を知っても知らなくても、やはり原作と似て非なるものというものとしていつも見ています。

小説には小説の、映画には映画の、持ち味があるからです。

 

今回でいうと、わたしは映画を観られて良かったと思いました。映画のほうが断然好みだった。これはわたしにはめずらしい。いつもは「原作のあの良さは映画では描ききれないけど、まあ映画は映画で良かったよね」となることが多いのだけれど、今回は「原作は原作で良いのだけれど、映画だから描ける良さを存分に活かしたね(そしてわたしはそれを存分に味わった)」でした。

 

たぶんこれには、わたしが村上春樹さんの作品に関して、どちらかというと長編を好むことも関係しているかもしれません。

 

吉田羊さん演じる主人公のサチは、原作のようにクールな女性なのですが、吉田羊さんの持つ魅力がそこに加わって、わたしの足りなかった原作の主人公像を補ってくれました。小説のなかの登場人物に肉感が加わった感じ。

 

ハワイの風景を余すところなく映像として扱っているのも映画ならでは。サーフィンのシーンは、わたしはこれまでサーフィンをしたこともないしやりたいと思ったことも、これからも縁があることは絶対にないだろうけれど、そんなわたしでも、「ああ、波に乗るっていうのは気持ち良いんだろうな」と思いました。サーフィンをそんな風に見たのははじめて。

 

原作ではもうちょっと想像力を働かせないといけないところを、映画は初心者にもわかりやすくガイドしてくれるように、でも大事なエッセンスは残してくれている。

だから映画を観て、また原作に還ると味わいが深まるようにわたしは感じました。

 

(これを書いていて気がついたけれど、原作を読んだ時はわたしは知らない土地の自分に馴染みのないアイデンティティを持つ女性に、いつもの想像力がうまく働かなかったんだろうな)

 

「騎士団長殺し」に通じる「時間を自分の側につける」こと


騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

「ハナレイ・ベイ」と関係のない軸で、ちょうど「騎士団長殺し」を再読していました。

初読の感想は特に残していないのですが、初めてこれを読んでいたとき、わたしはとても幸福感に包まれていたのをよく覚えています。当時の感触として「豊かさってこういうことを言うんだろうな」と何度もひとり言として呟いていました。

 

その「こういうこと」って何だ? 改めて読んでみて感じたのは、時間です。

 

主人公がエージェントにもうこれ以上仕事は続けられないと断ったときにエージェントが言った言葉。

「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間がかかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます」(騎士団長殺し第1部顕れるイデア編P601)

 

「ハナレイ・ベイ」でサチが毎年ハナレイ・ベイを訪れて過ごしていた時間も、同じように時間を自分の側につけることだったように思います。

 

ここでいう時間は、絶対的な時間のクロノスではなく、主観的な時間のカイロスのほうです。

 

ショックな出来事があったときに、事実はもうそこにあるけれども、それをどう自分のなかに組み入れていくかはその人によって違います。そして、それはそう易々とできることではないのかもしれない。

一見すると意味もないことをしているように見えることが、効率性とか生産性という言葉で言い表せない行為が、必要とされることもある。

そして、そういうことに重きを置くことに、わたしはとても関心があるんだろうなあと改めて思いました。

 

まあ、現実にはごはんを食べたり税金を払ったりするために、クロノスの時間を生きることも大切なんですが。それもわかった上で、ちゃんとカイロスの時間も生きることは、きっと豊かさに繋がるんだろうなあと思います。

「騎士団長殺し」は第2部を今週から読み始めました。その感想はまた別の機会に。

 

結び

アイキャッチの写真にあるように、映画館で鑑賞特典をもらいました。

「映画本編鑑賞後にお開けください」と書かれていました。

映画を観終わって、家に帰ってから開いてみました。

なかには何が入っていたのか?

これは、確かに映画鑑賞後じゃないと意味がないものが入っていました。(みんな同じ中身なんだろうか)

これをどう解釈するか? 受け取り手に委ねられる気がする。

面白い取り組みだなと思いました。

というわけで気になる方は映画を観に行ってください。数量限定なのかはわからないけど。

 

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