一期一会の物語「図書館の神様」瀬尾まいこ

  • 2021-08-31
  • 2021-08-30
  • 小説

図書館の神様 (ちくま文庫) 瀬尾まいこ

 

瀬尾まいこさんの本は初めて読みます。

そんなに分厚い本ではないので、するっと読めました。

最初に言っておくと、おすすめです。

 

今日はシンプルに感想のみです。

※物語のネタバレがありますので、未読の方はご注意ください。

 

図書館の神様〜感想〜

物語は、主人公“清(きよ)“の18歳までの人生の概略からはじまります。

 

18歳までの“前“と“後“でがらりと人生が変わってしまった人のお話。

ある意味では、18歳までで「清く正しい」生き方をしてきた“私“はいっかい死んで、そのあとの余生をどう過ごすかーー言葉を変えると生まれ変わった私をどう生きるか。

 

清く正しく隙間のない生き方で、バレーボールに熱心すぎるほど(スポーツ苦手なわたしからすると狂信的に)打ち込む一方、身体はあらゆる異物を受け入れないようなアレルギー体質。

ある意味で、18歳までの身体も“清く正しく隙間のない“状態だったのかもしれません。

 

山本さんの死が、清のせいだったかどうかなんてわかりません。

でも、清にとって、それはひとつの“象徴的な死“になりました。

 

ずっと一直線に清く正しくわき目をふらずに生きてきた清にとっては、はじめて打ち込まれた楔のようなものだったろうし、居場所を失う体験にもなったし、自分が見てこなかった側に追いやられる体験でもあったのだろうと。

 

そうして半ば投げやり(逃げるように)に田舎の私立の大学へ進学し、特にこれといった目標もなく田舎の高校の講師枠におさまった彼女は、お菓子教室で出会った男性と不倫関係にある、やる気のない高校教師として物語をはじめます。

 

うーん、最初の“清く正しい清ちゃん“からすると、例えば中学校の先生が知ったら「ほんとうに同一人物?」と思えるくらいの転換です。

 

で、すごく不思議なんですが、身体のあらゆる症状はもうこの頃には良くなっているんですよね。たまに頭痛は出るけど。

 

そんな清は不本意ながら1人しか部員のいない文芸部の顧問になるわけですが

まあ、この文芸部の垣内くんが、文章からしかわからないけど超イケメン

 

顔が格好いいとかそんな底の浅い話ではなくて、文学に熱心だし考え方は合理的だし清よりよっぽど大人びている。

中学のときは実はバスケ部のキャプテンをしていたこともあって、実はスポーツもできる。

文芸部は、卒業式前のイベントで発表をするのですが、丹念に調べ上げた川端康成と山本周五郎の論考をすっ飛ばして、即興での演説がまた超かっこいい

 

一部を引用してみます。小説を読んで久しぶりに刺さった台詞です。

 

「文学を通せば、何年も前に生きてた人と同じものを見れるんだ。見ず知らずの女の人に恋することだってできる。自分の中のものを切り出して来ることだってできる。とにかくそこにいながらにして、たいていのことができてしまう。のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界へ飛んでいく。僕は本を開いてそれをする」

(図書館の神様 P187)

 

こんなこと言えるのって、最高にかっこいいと思いませんか。いや、わたしはかっこいいと思います。

垣内くんの人生は、きっと豊かだろうなあと想像します。

 

 

清と垣内くんは、部活ではプライベートな話は全くしていません。

 

清は間接的に垣内くんの中学校のエピソードを知ります。

 

中学時代、バスケ部のキャプテンだった垣内くんは、夏休みの練習中に部員の一人が倒れて入院するという出来事に遭遇しています。

当時の垣内くんと、バレー部のキャプテンだった清にどれくらい類似点があるかはわかりません。

垣内くんが、そのときのことをどれくらい自分のせいと思っているかも窺い知れません。

 

だからこれは憶測の域だけれど。

もしかしたら、このふたりはどこかで似たような体験をして人生のターニングポイントを経たもの同士なのかもしれない。

 

ただし、それが「わかるよ。わたしも同じような体験をしたんだ」と語られることは全くなく

表面上は、文芸部の顧問と部員というビジネスライク(?)な関係が、ほんとうに物語の最後まで貫かれています。

 

垣内くんが卒業後に送ってくれた手紙も、ほんとうにそういう意味でさらっとしているものです。

高校の通過点での一期一会で、清と垣内くんの人生がこのあと交わることはほぼないでしょう。

 

でも、なんというのでしょうか。

 

目に見えて表れてくるものだけが、全てではなくて

逆に目に見えずに表れているからこそ、見えないところで通じているものが

爽やかでありながら染み渡るような読後感を生んでいます。

 

ああ、そうか。

これが文学の醍醐味なんだ、と、いま別方面から気づきが来ました。

 

清は、全然理想とか夢や希望があって教師になったわけではないんだけれど

でも、もし以前の彼女が教師を目指していたら、もしかしたら知らず知らずのうちに誰か生徒を傷つけていたかもしれない。傍目には熱心な教師が、必ずしも良いとは限らない。

 

で、そのやる気のないところから始まった彼女が

(でもやる気がないなりに授業の準備とか一所懸命やっていて、時に自分が面倒で行うやり方は結構面白いなとかも思う)

それでもやっていこうかなと思えたのは、垣内くんとの出会いはもちろん、いろんなことの巡り合わせだったのだろうなと思います。

 

人の出会いも、仕事との出会いも、ある意味では縁なのだろうなと思いました。

 

清は、案外良い教師になるんじゃないでしょうか。

そうして、清く正しく隙間のない以前の清より、こちらの清のほうが隙間があって人としても教師としても面白みが増していくだろうなと思います。

 

結び

文庫本に収録されていた「雲行き」についても感想を書こうかと思ったのですが、「図書館の神様」のほうでもう感想がお腹いっぱいになったので、今日はこの辺で。

本との出会いも一期一会ですね。だから読書は面白いんだ。

 

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