「わたしの美しい庭」凪良ゆう

  • 2021-10-14
  • 2021-10-12
  • 小説


わたしの美しい庭 凪良ゆう

 

前情報一切なしで読んだのですが、とてもとても良い本でした。

やさしい気持ちになります。

人間関係に疲れたときにオススメです。

 

※少し物語のネタバレがあります。未読の方はご注意ください。

 

物語の仕組み

小学5年生の百音(もね)ちゃんと、義理の父親統理(とうり)、お隣に住む路有(ろう)の3人の奇妙な組み合わせから物語がはじまります。

なんだか名前がみんな変わっていますねえ。今どきです。そこに挫けず読み進めましょう。

 

はじめは「え? この人たちどんな組み合わせ??」と思いました。

まもなくこの3人の不思議な関係性がわかってきます。

 

3人が住むマンションは、もともとあった「御建(みたち)神社」の場所に建てられたもので、神社は屋上に移築、屋上には神社とともに庭ができていること。

 

統理は両親のあとを引き継いで、マンションのオーナー兼宮司さんをしていること。(翻訳家でもある。兼業宮司さん)

百音ちゃんは、統理の別れた元奥さんの子どもで、百音の両親が事故で亡くなったときに統理が引き取ったこと。

お隣に住む路有は、統理の高校時代の友人で、ゲイでオープンキッチンの移動式居酒屋を経営していること。

そして赤の他人の3人が、不思議な関係性で家族のように一緒に過ごしていること。(路有は部屋は隣だけれど、食事は3人一緒です)

 

この設定自体もなかなか面白いのですが、そこは物語の中心ではなくて、あくまで中心はマンションの屋上の通称『縁切り神社』とも呼ばれる神社と、その美しい庭に位置しています。

 

さっき気づいたけど、百音(もね)という名前から、クロード・モネと睡蓮のあったあのジヴェルニーの美しい庭が連想されているのかなと思いました。

読んでいるときは、「某朝ドラのヒロインと同じ名前だ!(漢字が違う)」としか思っていなかった。読みが浅いわ

 

感想

人物の感情表現が巧み。奥行きのあるお話で引き込まれます。

ひとつひとつは大きなドラマはそれほどないんだけれど、他人からすると些細なことでも当事者たちにとっては重大なことで、その辺の描写の細やかさがほんとうにうまい。

 

メインの3つの物語の扱っているテーマが

あの稲妻……独身と結婚圧

ロンダリング……セクシャルマイノリティの恋愛

兄の恋人……うつ

と、どれもけっこう重い。そして内容もどれも軽くない。

 

にも関わらず、読み終わったあとの読後感の爽やかさやなんたるか。

 

どちらかというと、この物語の舞台は都会というよりは「昔ながらの地域性」が残っている地域で

だから古い慣習が根づいている。

 

わかりやすいところでいうと、ご近所さんネットワーク(噂が広まりやすい)や、良い歳した娘さんに『まだ結婚しないの?』とか悪気なく(ここ重要)言っちゃうような地域です。

 

そういうところに住むゆえの生きづらさみたいなのが全くなくなるわけじゃないんだけれど、それぞれのメインの登場人物たちは、彼らなりのやり方でもがき苦しみながらも自分たちの道を歩もうとしている。

ある意味でたくましく。ある意味で彼らなりの堅実さで。

 

だから、社会的にいえばマイノリティであったり弱い立場にある人(こういう言い方は好きじゃない)なんだけど、みんなやさしい、あったかい、そして他者に対して寛容になれる。

 

これは新しい在り方なのかな。

それとも、世の中がアップデートされていく先には、こういう在り方も標準になっていくのかな。

 

マジョリティにならなくてもいいから「そういうのもありだよね」と許容される社会になっていくといいな。

日本にありがちだった「みんなこうあるべき」から解き放たれた(それこそ縁切り神社で切ってもらうような)ものが、そこには描かれているような気がします。

 

でも、それは迷わないではじめからあるわけじゃなくて、いろんな迷いや苦しみもありつつも、そこを通り抜けていった先にあるもの。

 

みんながみんな同じところへ行きつかなくてもいいんです。

みんながそれぞれに自分にとって無理のない「わたしはこれで良い」と思える関係性や居場所ができると良いな。

「多様性」ってそういうことなんだろうなあ。

 

そんなふうに考えさせられた物語でした。

 

物語の質としては全然違うものなんだけど、海野つなみさんの漫画「逃げるは恥だが役に立つ」と同じエッセンスを少し感じました。あれも多様性に開かれているところがあるから。


逃げるは恥だが役に立つ(1) 海野つなみ

 

 

統理と百音ちゃんの出会いの頃の会話から、最後に引用。

統理が5歳の百音ちゃんにしている話は、ニーチェからの引用だそうです。(この辺に統理さんらしさが表れている)

 

ーー百音ちゃん、事実というものは存在しません。存在するのは解釈だけです。

(中略)

ーーぼくと百音ちゃんは血がつながっていない。他にもたくさんの事情があって、これからぼくたちのことをいろいろいう人がいるかもしれない。でもそれはその人たちの解釈であり、ぼくと百音ちゃんがなんであるかは、ぼくと百音ちゃんが決めればいい。

(わたしの美しい庭 P274)

 

 

わたしも自分で自分を縛っているものから、自由になりたいなあと思った。

いろんなかたちがあっていいじゃない。

どう解釈するかは、その人次第、自分次第です。

 

むしろ解釈を人に委ねるのではなく、自分自身で行うことのほうが大事。

これは、簡単なようでとても大変なことでもある。でもだからこそ、大事なことでもあると思うのです。

 

結びという名のおまけ。

個人的には桃子さんと基さんは、1周めぐって違うポジションの関係性もありなんじゃないかしらーとか思いながら読んでいました。(野暮ですか、すみません)

基さんのうつの描写はとてもリアルでした。真由さんを誰が責められましょうか。

うつのお話は、こちらもおすすめ。こちらは実体験エッセイです。


うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 先崎学

 

▽その感想はこちらに。(宣伝)

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