コロナ後の世界を描く「医学のひよこ」海堂尊

  • 2021-10-06
  • 2021-10-05
  • 小説


医学のひよこ 海堂尊

 

※「医学のひよこ」ネタバレがあります。未読の方はご注意を。

※この感想を書いている時点で、「医学のつばさ」は未読です。

※センシティヴな問題を取り上げているところもあるため、意図せず不快な思いをされる方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。

 

はじめに

昨年、「医学のたまご」を読みました。

 


医学のたまご (角川文庫)

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これは別に意図して読んだわけじゃなかったんだけど、偶然にも同年に続編の「医学のひよこ」が執筆されていることを知りました。

実は、この「たまご」から「ひよこ」出版まで10年近いスパン(※「医学のたまご」は2008年出版なので実質12年)があるのですよね。

 

そして、おそらくその10年という年月がもたらしたことのひとつ。

 

「医学のひよこ」は偶然にも(?)コロナ禍に執筆され、2023年という「新型コロナウイルスを克服した後の世界」が描かれています。

あと2年後かあ。現実の世界はどうなっているんでしょうね。

わたしは海堂尊さんの熱烈なファンではないので、あまり詳しく存じ上げないのですが、なんだか世相を反映したようなところがあるように思いました。

 

相変わらずとても読みやすいし(「たまご」よりも読みやすさはアップしている)、一見児童書かと思わせておきながら中学生のカオルくん目線でなかなか大人のエグいところを描いています。奥が深い。

というわけで、今日も感想行ってみまーす。

 

感想

ヨシタケシンスケさんの挿絵が最高に素敵です。

わたしもヨシタケシンスケさん好きです。さりげなく物語の味わいが増しています。

前作の「医学のたまご」から2年後の世界を描いています。

 

カオルくんも中3になりました。

前回は触れられていなかったカオルくんの家庭の事情についても今回は掘り下げられています。

「医学のたまご」を読んでいるときは気づかなかったけれど、そういえばカオルくんには謎が多かったし(複雑な家庭事情の割にサラッと描かれていた)、他にもいくつか謎があったのは、あらかじめ続編があることが想定されていたのかな。

あるいは描ききれなかった部分が、長い年月を経てやっとかたちになったのかな。

 

物語は2023年の4月11日から5月11日までのわずか1ヶ月の期間を描きます。

とても読みやすくてサクサク読めて楽しくて、でも終盤に雲行きが怪しくなって「え? もう終わり」という感じでした。

 

物語がどこへ収束するのかなと思ったらまさかの収束しなかった

「医学のひよこ」はさらにその後の続編「医学のつばさ」へ続くいわば前哨戦です。

 

前作の「たまご」は、中1のカオルくんから見た「医学の世界の大人の汚い一面」が描かれていました。

諸悪の根源藤田教授は残り、実直な桃倉さんが全ての責任を負って東城大を去りました。(これもまた、大人の側面を如実に描いていると思う)

物語の幕引きには、実は平凡な中学生カオルくんひとりの力だけでは無理で、陰でゲーム理論の大家のカオルくんのお父さん(マサチューセッツ工科大学の教授)の協力もありました。

カオルくんだけじゃなくて「チーム曽根崎」の同級生の活躍もありましたが、それは今回も健在。(むしろパワーアップ)

 

今回は、謎の生命体“いのちちゃん“をめぐっての医学の世界が描かれていますが

描かれている大人の世界がさらに拡がっています。

 

ここからは、わたしの勝手な想像も含みますが

あえて「新型コロナウイルス後の世界」として描いたことに、何かしらのメッセージが込められているように思いました。

わたしが勝手にメッセージとして受け取ったのかもしれませんが。

 

それはですね。

「医学と政治との切っても切れない関係」です。そこまで描いている。

「たまご」はまだ医学の世界の範囲にとどまっていました。

でも、今回は「もっと大きな力」が抗えない権力を行使している。

 

偶然にも同じ時期に、わたしはこういう本を読んでいました。

 


官邸の暴走 古賀茂明

うーん。かぶるね。なんかかぶったよ。

ほぼ同時期に読んでいたので、お国の管轄や首相案件になると手が出せなくなるところか、偶然にもとてもわかりやすく理解できました。

(とても面白い本なので、興味のある方はぜひ。テレビや新聞では見えない政治の一面を知ることができます)

 

新型コロナウイルス関連を通して、政府や医師会の対応はいろいろと浮き彫りになった(現在進行形でなっている)と思われます。

良くも悪くも、コロナはこれまで表面にそれほど表れていなかった大人の世界を浮かび上がらせた。

子どもの視点から「なんで? それっておかしいだろう」と思うことはたくさんたくさんあると思います。

 

カオルくんの世界では、新型コロナウイルスは克服されました。

直接コロナは描かれていません。

 

でも“いのちちゃん“を通して、別のルートから何かを描こうとしているように思います。

今回の物語では、前回の頼みの綱だった「頼りになる大人」がいません。

桃倉さんのように実直に正しいことをする人(責任も含めて)もいないし、大学幹部は強い権力の前に為す術がないし、カオルくんのお父さんは沈黙でどこでどうしているか不明。

「チーム曽根崎」も美智子ちゃんが連れ去られています。(実質的に軟禁に近い扱い)

 

最終章のタイトルにあるように、文字通り「夜明け前が一番暗い」ところで物語は終わっています。

 

倫理上は「いのちちゃん」の命の尊厳を守ることが大前提であるべきなのに(美智子ちゃんの反応は、まともな反応だと思うのです)、ややこしい大人のあれこれでその前提がロジックの組み替えをされている。

どうなるのかな。ここからどう物語が動いていくのかな。

 

最終的に良い方向へ進むことを信じつつ、続編の「医学のつばさ」へ続きます。


医学のつばさ

 

おまけ:もし”いのちちゃん”が違う外見だったら?

※どうでもいい戯言です。興味のない方は飛ばしましょう。

 

ふと感想を書き終わったあとに考えていたのですが

もし”いのちちゃん”の外見が違っていたら、どうなったんだろう??

 

いのちちゃんは未知の生命体です。

外見は人に似ているし(でかいけど)、人の赤ちゃんのような感じです。ミルクと果物を好みます。

美智子ママの関わりがとっても良くて、いまのところ赤ちゃんっぽいです。

 

もし、これがゴジラみたいな外見だったら?

生まれた途端、ゴジラみたいに大暴れしてしまったら?

ミルクと果物じゃなくて、肉食だったら……?

人を襲ってしまったら……?(生まれたばかりの人外の生命体にその判断ができるでしょうか)

 

果たして「チーム・曽根崎」は、同じような対応ができたでしょうか。

ショコちゃんたちや東条大の大人(一部の)は協力してくれたでしょうか。

 

そう考えると、「命をどう扱うか」の倫理観は、実に人間中心に考えられたある意味で自分勝手なものだとわかります。

これは、物語のテーマとは少し違うところですし正直どうっでもいい話なのですが、そんな視点から考えてみると、世界がまた違って見えてくるかもしれません。

 

結び

海堂先生の本はこれで2冊目という初心者なのですが(超有名な「チーム・バチスタの栄光」は未読……そのうち読みます。ちなみにチーム・バチスタ関連は東条大学シリーズというのですね。うわあ)

今回の「ひよこ」をきっかけに海堂先生がコロナ関連の書物を出されていることを知りました。

 

また読んだら感想をブログで取り上げたいと思います。

 

関連情報

この本の感想は書かないです。語るにはもっと咀嚼の必要な分野です。紹介だけ。

 

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