「みみずくは黄昏に飛びたつ」川上未映子 訊く 村上春樹 語る

小説以外
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先日飲み会で、村上春樹さん好きな方と、村上作品について語り合う機会がありました。

わたしの周りには、賛同者がほとんどいないので、久しぶりに好きな本について語り合う機会が得られて、めちゃくちゃ楽しくて(めずらしく)いっぱい喋ってしまいました。

 

そのときに、まだ読んでいなかったからと勧められたのが本書です。

 

ちなみに、そのときの語りと、本書を読んで、「まだ『騎士団長殺し』が自分のなかで消化できていない」と気づきました。

「騎士団長殺し」は2回読んだのですが、これは年明けに3回目を読まなくてはと思います。

 

 

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本書について

本書は、作家の川上未映子さんが、村上春樹さんにインタビュー形式で質問されて、それに村上春樹さんがどんどん答える形式になっています。

 

タイトルの「みみずく」は「騎士団長殺し」に登場するみみずくさんにちなんで。本書のなかでも、みみずくについて取り上げられています。

 

これまでにも村上春樹さんが対談したり、インタビューに答えたりという形式はありましたが、本書は最近の長編(それでももう3年くらい経つんだ)「騎士団長殺し」がよく取り上げられているし、なにより同業者の川上さんの感性が冴え渡るインタビューで、読み応えがありました。

 

わたしは村上春樹さんの作品について他の人が書かれている本はほぼ読まないし、自己流で読んでいて周りに特にそれについて語り合える人もいないので、「そうか、こんな風に読み込まれているのか」と感心しながら川上さんの語りを読んでいました。

 

ちょっと自分の読みが浅はかなのではと落ち込みそうになりましたが、まあそこは各々自由に感じ取って読めばいいんだし。

ちなみに、わたしはいろんな人の本を読むのが苦手なので、川上さんの著書は1冊も読んだことがありません。もしここを読んでいる方で川上さんファンがいたらすみません。これを機会に読んでみようと思います。

 

気になったところをピックアップ

基本的に春樹さんが語っていることは、これまで他のいろんなところで語ってきたことを一貫しています。

でも、そこにインタビュアー川上さんの鋭い質問が織り込まれるので、これまでよりもデティールが深まった印象です。

 

特に、家の絵をもとにした「地下1階、地下2階」の喩えは、とてもわかりやすかった。

以下、気になったところをピックアップしながら感想を書いてみます。

 

文体は心の窓である

そのためには文章を丁寧に磨くことが大事になります。靴を磨いたり、シャツにアイロンをかけたり、刃物を研いだりするみたいに。

(P228  第三章 眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい)

 

最近の春樹さんの著書「騎士団長殺し」や紀行文集「ラオスにいったい何があるというのですか」(多崎つくるも)を読んでいて真っ先に感じたのは、ストーリー性(内容)そのものよりも「文章が心地いい」でした。

 

春樹さんは、何度も文章を推敲することで有名です。

 

年々文体が洗練されていっている気がします。

他の小説家さんの作品を読んでいて「文体が心地いい」とは思わないんだけれど(その作家さんの文体の癖みたいなのはなんとなく受け取る)、春樹さんの場合最近それがまずやってきます。

 

色彩を持たない多崎つくる、彼の巡礼の年」でも思ったし、紀行文集「ラオスにいったい何があるというんですか」でも思った。


 

▽ラオスの感想でも似たようなことを書いています。

 

「騎士団長殺し」の読み込み(考察)が進まないのは、まず文体に癒されてしまっていた感がとても強いです(笑)。読んでいて、文体に癒される。

 

これは、わたしの錯覚とか、春樹さんを盲目的に好きなあまり起こっているのではなくて(笑)、作者の意図的な努力が産んでいるものなのだと改めて実感しました。

その喩えが、「靴を磨いたり~」という表現で付け加えられるのが、無性に好きです。とてもわかりやすく、日常に根ざしていて、かつウィットに富んでいる。

 

物語の重みを信じる

もう何万年も前から人が洞窟の中で語り継いできた物語、神話、そういうものが僕らの中に継続してあるわけです。それが「善き物語」の土壌であり、基盤であり、健全な重みになっている。(中略)それは長い長い時間を耐えうる強さと重みを持った物語です。

(P336 第四章 たとえ紙がなくなっても、人は語り継ぐ)

 

時々、言葉の無力さに言いようもない空しさを感じることがあります。

 

言葉は大きな力を持っているし、それは癒す力もあれば、暴力にもなりうる。

 

直接的な言葉が、悪いわけではないけれど、それは善いかたちで届かないこともある。

 

こんなに世の中がものすごい速さで便利になっても、物語が失われないのは、物語の持つ力です。

太古の昔に洞窟で語られた物語は、物語の原型なのではないかと対談のなかで言われていますが、物語の歴史は文字よりも古いのです。

 

物語の持つ力を、もっと信じてもいいのではないかと。

 

マクロな視点で言えば、地下二階まで降りて行くような、洞窟の中から続く語り継がれるような物語でもあるし、ミクロな視点でいけば、個人個人が持つ物語も内包されると思います。

 

時間をかけること

これは「騎士団長殺し」に実際に書いてあって、とても参考になったこと。

とにかく時間をかけること」そうしないと生まれ出てこないものがあるということ。

 

そんなに具体的な準備はしないけれど、時間だけはたっぷりおきます。時間をおくのってすごく大事なんです。地下二階に降りて行こうと思ったときにいちばん大事なのは、正しいタイミングを捉えることです。そのときが来るまでじっと待たなきゃいけない。(中略)いくらうまいサーファーでも正しい波が来なくちゃ乗れません。

(P119より引用)

 

とにかく結果を出したいとき、現状に不安があるとき、とにかく「動かなきゃ」と焦ってしまいます。とかく現代は時間の動きが速いから、それが当たり前に思えてくる。

 

だから「時間をおくこと」というのは、自分のなかでとても大きな発想の転換になりました。

 

といっても、わたしは結構走り出すと止まらないところもあるので、まだ勘どころみたいなものは掴み切れていないのだけれど。ちょっとずつ、そういうのが最近わかってきた(ような気がする)

 

あと、その間になにもしないということではないんですよね。

そのあいだに、春樹さんは走ったり、翻訳されたり、短編を書かれたりされています。

 

結び

村上春樹さんの、自身について語られるお話って割と一貫して変わっていないんだけれど、本書は川上未映子さんがわかりやすく掘り下げてくれている感じがして、「うんうん、そうそう」と頷くことが何回もありました。

 

特に地下二階の喩えは、川上さんのわかりやすい絵の解説もあって、とってもわかりやすかった。

これを読んでから、また「騎士団長殺し」を再読したくなりました。

 

新年の村上作品は「騎士団長殺し」からはじめます。

 

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