ご縁のお話 『ツナグ 想い人の心得』辻村深月

小説
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「ツナグ」の続編です。前作も読んだことがあるのだけれど、随分前の話です。

 

 

だから、細かな内容は忘れてしまいました。

死者と会えること、その仲介をする使者が<ツナグ>と呼ばれる人。

 

そして、ツナグを引き継いだのは高校生の男の子で、やたらと高級なコートを買ったらしいこと(そのコート、健在です。さすが歩美くん。物持ちが良い)

それくらいしか覚えてなくても大丈夫です。エッセンスは残しつつ、今作も十分楽しめる内容です。

 

でも、前作と繋がりのあるお話もあるので、前作と続けて読んだり、復習のために読むのも良いです。

そういえば、映画化もされましたね。

 

 

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ご縁のお話

『ツナグ』は、亡くなった人と一回だけ再会できるという設定のお話です。

その設定自体はファンタジーなんだけれど、繰り返し言われるのは『ご縁』という古式ゆかしい言葉。

『ツナグ』とコンタクトが取れることそのものがご縁なのだそうです。

 

ご縁って不思議ですね。

非科学的なもののように思えるけれど、でも確かに存在する。

夫婦や恋人ともあるし、それ以外でも人と人との繋がりの多くはご縁で結ばれているように思います。

 

『ツナグ』と関係のないところで、歩美が奈緒さんと出会ったのも、何かのご縁という気がします。

ものすごーくある人のことが好きだと思っていても、ご縁がないと繋がれなかったりもする。

 

そのときは必死すぎて気づかなかったけれど、長い月日が経つと「うん、やっぱり縁が薄かったんだな」と思うことがわたしにもありました。

『ツナグ』は、いろいろな縁の繋がり方の物語でもあると思います。

それは直線的なものばかりではなく、さまざまなかたちをして表れます。

 

それぞれのご縁

プロポーズの心得

好きな人のことをきっかけに、思いもしなかったかたちで離婚して生き別れた父親との再会を果たす。

めぐりめぐって、それは好きな人へのプロポーズに繋がる。

 

はじめは「なんで彼に繋がったんだろう」と疑問符がつくのだけれど、そういうかたちをとってしか、おそらく父と繋がれなかった。

ストレートには繋がれないものを結ぶのも、『ご縁』のかたち。

 

歴史研究の心得

なにもご縁があるのは、親しい恋人や友人、配偶者、家族だけじゃないのよというお話。

ツナグのなかでは、渋いしちょっと異色なお話ですが、でもこのお話が入っていて良かったなと思いました。

 

この物語の主人公、鮫川さんはちょっと(かなり)変わっていますし、独身の方ですが、決して孤独でも不幸な人でもないからです。

とっても素敵です。緊張しているところも、実際に歴史上の人物と会えて歩美に興奮冷めやらぬ熱い想いを話すところも。

こんな風に年を取るのって、とっても素敵です。

 

母の心得

ふたりの母のお話。バックグラウンドも、年齢も、依頼する状況も全然違います。でも、『母』と『いまこのタイミング』というところが共通するふたり。

ご縁は、単に人と人だけの縁だけでなく、時空的な縁も関係しているのだろうと思います。

はじまりはとても重いものからだったけれど、終わりには晴れやかな気持ちになる、そんなお話です。

 

それにしても時子さん、なんてエキセントリックで格好いい女性なんだ。粋です!

おそらく愛娘の死がなければいまの時子さんはいなくて、それも不思議なご縁のひとつなのでしょう。

 

ひとり娘の心得

この辺の配置具合が辻村さんの絶妙さだと思う。

この物語は、ツナグを介さないで繋がるお話です。

 

歩美がツナグ以外のところで身近な人の死に関わり、それがとても大切な人だからこそ葛藤する。

でも、歩美くんの<ツナグ>的ある種の傲慢さ(自分だったら死者と仲介できる)をよそに、当の本人(奈緒さん)はさっさと自分のなかで父親と対話する。父親の遺した作品を通して。

 

ツナグは、一晩だけ死者と再会できるというお話ですが

実際に再会できなくても、亡くなった人と対話することはできるのです。

 

奈緒のように、自分のなかで。場合によっては、それで生前と違った関係性を結ぶこともあります。(質の変容とでもいうのでしょうか)

具体的ではないから、容易ではないのだけれど。でも、大切なこと。

ツナグにこの物語が入って良かったなあと、この感想を書きながら気づきました。

 

想い人の心得

最後を締めくくる、これまた素敵なお話。

これは40年近く死者と交渉し続けたという、稀有なパターンです。

 

歩美が祖母から引き継ぐときに、マニュアルがないからいろいろなケースを聞いていたのも頷けます。ほんとうに、さまざまですね。

 

表題の『想い人』は重層的な意味合いが込められていると思う。

 

蜂谷さんの、ほのかな初恋と、恋だけでなくもっと大きな意味での愛情(蜂谷さんだけでなく、絢子さんを愛したたくさんの人の思いも背負って)の『想い

歩美の、奈緒さんへの『想い』(いやもう、わたしは奈緒さんが初登場したときから「これはもしや」とアンテナがビンビンに張っていましたよ!)

 

あと想い人は単に恋だけではないんだなあというのが、この物語の深み。

 

蜂谷さんあっさり「結婚して子どももできてお店も持てて幸せでしたよ」とあっさり絢子さまに言っています。

絢子さんは初恋の人かもしれないけれど、その想いは添い遂げるものではなく(婚約者の昭二さんと絢子が一緒になっても、蜂谷さんは喜んだと思う)、でも死ぬまでに叶えたいと強く願うほどの想いを持つほど大切な人でもあった。

 

そしてそんな蜂谷さんの姿は、歩美くんにも波及します。

最後を締めくくるにふさわしい物語でした。

 

結び

<ツナグ>という題材を通して、いろいろなご縁のあり方を知る物語でした。

割と誰にでも読みやすい物語だと思う。

辻村さんの本のなかでは、さわやかで心地良い風が吹くほうの作品。

 

もしかしたら大切な誰かを失った人にも、響くものがあるかもしれません。

 

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